金田式DACの製作
無線と実験(MJ)誌の3,4月号に金田式DACの製作記事が載ったのをご存じでしょうか。
DCアンプで有名な金田明彦先生が今まで忌み嫌われていたCD(耳が破壊されるとまで言われた)を再生するためのDACを製作されました。
製作記事の試聴記には、「本機で再現されるCDの音は、限りなくアナログに近いというレベルを超えており、アナログレコードでは出にくかった音さえ鮮明に再現されている」とありました。
これを読んだら、金田式DACを作らない訳には行きませんよね。
この記事が掲載された本も発売中です。MJ誌にあった誤記も修正されています。
ということで、製作開始です。
記事を参考に部品集めからユニバーサルプリント板へのレイアウト設計などに一か月以上かかりました。
金田先生の記事通りの実配線図を使えば簡単ですが、思うところが有りまして、一から部品配置を考えたので時間がかかりました。
DACチップの半田付けが一番の肝で、これが成功するかで全てが決まります。
ICのピン間が0.65mmなので、1ピンづつの半田付けは絶対に無理です。40Wの半田ごてを使って、半田も片方のピン全てに一気に乗せてしまいます。
その前に、フラックスを塗っておくと失敗が少なくなります。
その後で、半田吸い取り線を使って大胆に余分な半田を取り除くと、ピン部分だけの半田が残ってくれます。
半田がブリッジになって残っていたら、そこも吸い取ります。
あまりやり過ぎると必要な半田までとれてしまうので、塩梅が難しいです。
失敗したと思ったら、半田乗せからやり直せば大丈夫です。
10倍のルーペを使って、慎重に半田付けをチェックしましょう。
チェックしたつもりでもミスが後で見つかることが多いです。
デジタル部はDACチップの半田付けさえ完璧なら、殆ど問題はありません。
後は、自作した配線図を見ながら部品を半田付けしていきます。
オーディオ用銀入り半田を使いましたが、溶解温度が高いのか綺麗に半田付けできなかったので、手慣れた半田を使った方が良いと思います。
後で気付きましたが、金田式では部品の向きも指定があります。
昔から金田式DCアンプを作られている方には常識なのでしょうが、今回の記事では何の説明も無かったので、部品の向きはバラバラになってしまいました。
回路図の部品に△印が書かれており、これで部品の向きを合わせます。
他の金田式の記事に、部品の向きを示す図入りが載っているので参考にするとよいでしょう。
アンプ部はトランジスタの種類によってNTypeとPTypeの二つの回路が記載されていますが、NTypeで使われるトランジスタの入手が無理なので、PTypeの回路を採用しました。
アンプ部はステレオなので同じものを二個作成します。
完成したら、慎重に回路図と見比べながら、配線チェックを最低でも二回は行います。
大丈夫なようなら電源と接続して、火入れです。
変な臭いがしたり、部品が熱くなったら、直ぐに電源を切りましょう。
私の場合はトランジスタが熱くなったので、見直したら、配線ミスや配線漏れがありました。
テスターを使って、ゼロバランス調整を行います。
完全にゼロバランスが取れない場合は、ペアになるトランジスタのばらつきが原因なので、取り替えます。
ペアにするトランジスタの選択方法は記事を参考にしてください。
アンプ部もなんとか完成です。
デジタル部とアンプ部を接続して、CDトランスポートから入力して、パワーアンプとも接続します。
小心者の私はパワーアンプを壊すのが怖いので、PC用のアンプ付きスピーカに接続しました。
電源を入れましたが、まったく音が出てきません。
回路図や配線を何回見直しても間違いは見つかりませんが、音が出てきません。
やっぱり、自分で配線レイアウトからやったのが駄目だったと思いました。
こんな私のために、世の中にはDACキット(プリント板とDACチップのセット)を頒布されている方がおられます。
お気楽オーディオキット資料館
最後の手段として、デジタル部とアンプ部のプリント板とDACチップをここから購入しました。
デジタル部は金田式DACと殆ど同じ回路で、アンプ部は金田式DACの回路に変更ができます。
今回は、MJ誌掲載方式(定数変更)の回路にします。
このキットはICとプリント板だけなので、その他の部品は自前でそろえる必要はありますが、製作は部品を所定の位置に半田付けするだけで簡単に完成します。
電源部は前の自作DAC時に作成していたものを流用します。
例によって電源を入れると、今回は音楽が聴こえてきてほっとしましたが、よく聴くと右CHから音が出ていません。
配線ミスはないようなので、DACチップの半田付けが怪しいです。
右CH用DACチップの半田付けをやり直したら、ちゃんと両CHから音が出ました。
PC用スピーカですが、かなり良い音が出ています。
中低音部が厚く、ハイレンジで高解像度です。
このDACは頒布者のお名前を冠して、藤原DACと命名しました。
電源部もダイオードをショットキバリアダイオードに替えたものを作成して、デジタル部の5V電源もアナログ用とデジタル用の二個用意しました。
実は、このキットが届く前に、前の自作DACの音がでない原因が判りました。
なんと、デジタル部のDAI用のCS8416というICチップがCS8412という違うものを使っていました。
インターネットで購入する際に、間違って上の段の商品を選んでいたようです。
チップの印刷が薄くて見えにくいので、まさか間違えているとは思いもしませんでした。
CS8416を購入して交換したら、あっけなく音がでました。
二台分もDACがあっても仕方がないので、さる方に贈呈することにしました。
自作DACの方は、金田式指定の貴重な部品を使ってあるので、そちらを差し上げることにしましたが、ケースまでは手が回らなくて、煎餅缶をケース代わりにしました。
煎餅缶の商品名を冠して太郎丸DACと命名されました。
差し上げた方に藤原DACと太郎丸DACの試聴をお願いしましたが、どうも太郎丸DACの方がJAZZ向きの熱い音のようです。
やっぱり、使用部品が金田式指定なので音が良いようです。
となると、金田式指定の部品で向きも指定通りの金田式DACをもう一台作るしかないですよね、やっぱり。
デジタル部はほぼ同等なので、アンプ部だけ、藤原DACキットのアンプ部のプリント板に金田式指定の部品を使って作ることにしました。
既に三度目の製作なので、さっさと完成します。
藤原DACのアンプ部を交換したら、やっぱりJAZZ向きの熱い音になりました。
アンプ部が二個余ってしまいました。
なんかもったいないなぁと思い、デジタル部のICチップセットも手持ちがあるので、デジタル部も金田式で作成しなおすことにしました。
デジタル部は藤原DACキットだと、回路的には殆ど同じですが、部品配置で気になることがあり、音にも影響が感じられるので、ユニバーサルプリント板でレイアウトから作成することにしました。
将来の変更を考えて、最初に作ったレイアウトとは別の新規作成です。
こちらでもDACチップの半田付けのやり直しはありましたが、割合と簡単に完成しました。
藤原DACのデジタル部と交換しましたが、気になっていた部分も解消したようです。
このDACは、やな式DACと命名しましたが、やなさんDACの方が良いかな。
余ってしまった最初の藤原DACのデジタル部とアンプ部も、ある方に贈呈しました。
結果として、金田式DAC(やなさんDAC)が手元に一台残りました。
このDACは、私が持っているWadiaX32と比べて解像度やレンジ、定位などで勝っていると思います。
最新DACチップと金田式の組合せは、侮れません。
通電100時間を超えると更に化けてくれます。
CDトランスポートの方は、当初はPCを使っていましたが、Wadiaの170I Transport(やっと発売されまた)の方が良いので、iPod=>170Iの構成にしてあります。
これで、DACに関しては、当分は上がりです。
と思っていたら、無線と実験(MJ)誌の11,12月号に金田式真空管DACの製作記事が載っているではありませんか。
真空管にすると、更に良いそうですが、真空管396Aが12本も必要で更にマッチドペアの選別が必要になると何本購入することになるのかと考えただけで手が出せません。
記事を読むと、デジタル部も改良されています。
やなさんDACにも応用できそうです。
-3.3Vレギュレータ
-入力段の別基板化(カップリングコンデサをSEコンに変更)
-ディエンファシスをON(プリエンファシスのされたソース
を自動的にディエンファシスして出力)
これはやらない手はありませんので、即改造です。
デジタル部の3.3Vレギュレータ化は作成時に想定していたので簡単な変更で済みました。
ごく薄いベールですが一枚剥がれました。高音域が綺麗にすっきりして、低音域も更に厚くなったみたいです。
カップリングコンデンサを4個換えるのは金額的に無理なので、違いが確認できるように、SEコン8200Pを1個、
ディップマイカ10000Pを1個換えました。
ディップマイカは、少し粗さが感じられますが、今までのAPSコンよりは一段良くなりました。
SEコンは、ディップマイカのような粗さがなく、艶が加わって少し上品になった感じです。
女性ボーカル好きの私には、これが一番のようです。
エージングしたら更に良くなってきました。
ディエンファシスをONは、CS8416チップの16番ピン部分の接続変更だけでしたので、スライドスイッチで切り替えできるようにしました。
古いCDでは変化があるはずですが、効果はまだ確認はできていません。
これで、DACは最後になるのでしょうか。
金田式DCプリアンプの製作
金田式DACの音があまりにも凄いので、アンプも作りたくなって来るのは仕方ないのでしょうか。
金田式DACの製作記事の載った本に、CDラインアンプの記事があります。
回路的には、DACのアンプ部よりも簡単です。
更に別な記事のレコード再生システムのフラットアンプはCDラインアンプの改良版のようです。
音量調整もゼロまで絞れます。
今までの金田式アンプではボリュームを0にしても音が出てしまっていたので画期的です。
しかもボリュームを信号が通らないので音への影響もないそうです。
部品集めも配線図作成もDAC製作で慣れたので、簡単に出来て、半田付けもあっという間に完成です。
試聴結果は、C22のような中低音が分厚いイメージはなく、金田式DACに似た傾向で、ワイドでフラットです。
C22と比べても負けてはいないと思います。
C22は、一番聴く音量の調整幅が少なく、1ステップ下げると音そのものが死んで聴こえる欠点がありましたが、細かな音量調整も出来て、ボリュームの位置による音の変化もないようです。
缶ケースでは可哀想なので、ケーシングすることにしました。
金田式DCメインアンプの製作
プリアンプの次はパワーアンプということになるのは当たり前?ですが、DCパワーアンプはスピーカ破壊の可能性が付きまとうので、簡単には手が出せません。
例によって「完全対称型オーディオDCアンプ」の本を眺めていたら、オールFETプリメインアンプの記事が目に止まりました。
FETと言えば、真空管テイストな半導体ですので、興味が湧いてきました。
出力も15W程度なので、出力トランジスタへの電圧も低くて扱いやすそうです。
ということで、オールFETプリメインアンプのメインアンプ部分を使ってパワーアンプを作成することにしました。
スピーカ保護のための保護回路DC検出部と保護回路制御部もあるので、スピーカも安心です。
今までのアンプと違って、温度補償のためのサーミスタや出力トランジスタの放熱板の用意、トランスも大きくなりますが、製作は殆ど同じ工程で済みます。
保護回路の動作確認が出来たら、ダミー抵抗を使ってアンプの調整(ゼロポイントとアイドル電流)です。
ゼロポイントがうまく取れないので、ペアトランジスタを取り換えました。
アイドル電流は200mAに合わせます。
トランジスタがあったまってから再調整して完成です。
いよいよ、iPodを入力にして、小さなスピーカを接続して音出しです。
問題なく音楽が流れてきています。
ハム音もなく、音量調整も大丈夫なようですので、オーディオシステムに組み込んでみました。
SNはいいです。
ハム音は出ていませんが、本体のトランスが少し唸ります。
高解像度、ハイレンジは金田式DCアンプの共通した特徴でしょうか。
全体的に音がさがった(沈んだ)感じを受けます。
刺激的な感じはせずまろやかです。
マッキンに慣れた耳には物足りません。
低音部はよく出ていますが、中音部が普通のレベルなので、グイグイと来てくれません。
375のハイカットを止めてスルーにしてレベルを1DB上げてみましたが、まだ調整が必要のようです。
楽器の定位は、スピーカの少し後ろ辺りで、解像度が良いのか、マッキンより楽器の位置がよく判ります。
ボリュームを上げてもうるさくなりません。
マッキンは小さいとしょぼい音で、大きいとうるさいです。
全体として、きれいな音だけど楽しさが足りない。
MC275を超えることはできないのかな。
エージングによってどこまで化けるか楽しみです。
缶ケースでは可哀想なので、ケーシングすることにしました。